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「森とたたら製鉄」
(令和元年9月)

「たたら製鉄」のことをご存じでしょうか。
 たたら製鉄は、簡単に言うと土砂に含まれる砂鉄を木炭で熱し、還元して鉄を造る手法ですが、中国地方では、中国山地の各地で盛んに行われ、大正時代に一旦はたたらの火が消え、再度、大戦時の軍刀の需要により火が入りましたが、終戦とともにその火が落ちました。
 最盛期には、日本全国で使われるほとんどの鉄をこの地域で産出していたとも言われ、質、量ともに日本一の鉄の産地でした。

 では、なぜこの地方が鉄の最大の産地になったのでしょうか。
 中国山地一帯では、良質な砂鉄がとれたことと、もう一つは豊かな森林があったことです。

 たたら製鉄にまつわることわざに、「小金七里に炭三里」とあり、砂鉄は28km以内で、炭は12km以内で調達できないと経営が成り立たないと言われていました。砂鉄よりも豊な森林がより身近に無いとダメだったようです。

 次に、どれくらいの森林が必要だったのでしょう。
 一度の操業で1haの森林から作られる木炭が必要だったようで、年間60回程度操業していましたので、1年で60haの森林が必要です。一般的に30年で伐採した森林が再生すると言われているので、60ha×30年で約1800haの森林がたたら製鉄を行っていた集落の近辺にあったことになります。
 年間60回の操業は少ないように思うかもしれませんが、1回の操業は3日ないし4日かかっていましたし、湿度の高い梅雨時期は操業しませんでしたので、ほとんど休みなく連続操業していたことになります。

 木炭ですが、私たちがよく耳にするのは備長炭ですが、これは高級料理店などで使われる炭で、ウバメガシという木から作られています。紀伊半島や四国地方などの比較的海岸に近い森林に自生しています。広島では、倉橋島などの島しょ部で見ることができます。
 備長炭は白炭と言われますが、一般的な炭は黒炭と言われ、主にミズナラ、コナラ、カシ類が使われます。たたら製鉄に使うたたら炭では、特に樹種を限定していなかったようで、様々な樹種が炭に焼かれ、私たちが知っている木炭よりも、炭化が進んでいない半生的な炭であったようです。たたら炭は、質より量であったのかもしれません。

 たたら製鉄では、砂鉄を採取することを鉄穴流し(かんなながし)と言って、山を切り崩し、水流によりその土砂の中から砂鉄を比重の違いで選鉱しますが、その際大量の土砂を川に流していました。このため、近隣の村々では度々洪水が発生し大きな被害が出ていたようです。神楽の演目に八岐大蛇がありますが、これは、鉄穴流しによって、河川が大氾濫していたことを表現したものと言われています。
 一方では、鉄穴流しにより、山が切り崩され平地となった場所は、田に造成されました。この田は現在も稲作が続けられており、重機の無い時代に現在の圃場整備に匹敵する土木技術を持っていたことにはとても驚かされます。
 たたら製鉄は、製鉄に関わる人の雇用や農地が造成されたことで食料増産につながり、30年といったサイクルで常に新たな森林が再生されてきました。
 自然破壊という人もいるかもしれませんが、中国山地の山懐で、高度な製鉄や土木技術を持ち、森と共存していた人々がいたことを、私は記憶にとどめておきたいと思います。
 
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